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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)46号 判決

一 請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

二 審決を取り消すべき事由の有無についての判断

1 本願商標が、別紙(一)に示すとおり「雀夢」の漢字を縦書きしてなり、指定商品を第二四類「おもちや、人形、娯楽用具、乗馬用具、乗馬ぐつ、つり具、楽器、演奏補助品、蓄音器(電気蓄音機を除く)、レコード、これらの部品及び附属品」とするものであること、中国伝来の室内遊戯である「麻雀」(マージヤン)が一般に広く親しまれており、かつ本願商標の指定商品のうちには、「娯楽用具」として麻雀用具が含まれることから、「雀」の漢字は「ジヤン」とも発音されるので、「雀夢」の漢字からなる本願商標からは「ジヤンム」の称呼も生じ、これをもつて取引に資される場合のあること及び引用各商標が別紙(二)に示すとおり「Super Jam」の欧文字よりなり、そのうち、引用商標の一は、指定商品を第二四類「運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード、これらの部品及び附属品」とし、引用商標の二は、指定商品を第二四類「おもちや、人形、娯楽用具、これらの部品及び附属品」とするものであることは当事者間に争いがない。

2 原告は、まず、本願商標からは「ジヤンム」の称呼が生ずるのに対し、引用各商標はその構成に照らして、「スーパージヤム」と一体に称呼されるものとみるべきであるから、本願商標と引用各商標とが称呼において類似するとした審決の認定判断は誤りであると主張するので、この点について判断する。

引用各商標は別紙(二)に示すとおり「Super Jam」の構成からなるところ、そのうちの「Super」の部分は、「上等の」、「極上の」、「特等(級)の」等を意味する語として標章の構成の一部に普通に用いられるものであることは、当裁判所に顕著な事実であるから、「Super」の部分は商品の品質を誇称する語にすぎず、この語によつて自他商品の識別機能を期待することは到底できないものである。また、引用各商標のうちの「Jam」の部分は、果実に砂糖を加えて煮詰めた保存食品である「ジヤム」の英語に相当する語ではあるが、本願商標や引用各商標の指定商品である第二四類に属する指定商品との関連においてみるかぎり、「Jam」の語が、商品の普通名称であるとも、また商標法三条一項三号に列挙された品質、形状などを普通に表示したものとも認められないから、「Jam」の部分は、それ自体によつて自他商品の識別機能を十分に発揮し得るものと認められる。引用各商標をこのようにみられるとすれば、引用各商標に接した需要者においては、引用各商標について、「Jam」の標章が付された商品のうち、更に上等の商品を表示するために「Super」と「Jam」の語を結合させたものと認識する場合のあることは否定できないというべきである。したがつて、需要者においては、引用各商標を「スーパージヤム」と称呼するだけでなく、「ジヤム」とのみ称呼することもあるものと認めるのが相当である。引用各商標から「スーパージヤム」なる一体の称呼のみが生じるとする原告の主張は採用の限りでない。

3 次に、原告は、仮に、引用各商標から、単に「ジヤム」という称呼が生じるとしても、本願商標から生じる「ジヤンム」の称呼とは語調、語感が相違し十分に区別し得るものであるから、本願商標と引用両商標とが称呼において類似するとした審決の判断は誤りであると主張する。

本願商標を構成する漢字のうち「雀」は、鳥類の「スズメ」等を意味するものとして本来の字義にしたがつて用いられるほか、麻雀の略称として他の語と組合わせて用いられることは、広く理解されているところであり、後者の場合「ジヤン」と発音されるものであることは審決も認めるところである。そして、本願商標である「雀夢」から連想する内容は、人により必ずしも一義的ではないとしても、需要者は少なくとも麻雀に関連した連想をいだくことは疑いのないところである。したがつて、本願商標の「雀夢」の漢字を発音する場合にも、「ジヤンム」のうちの「ン」の音が後音「ム」と一体化してしまい、麻雀の略称として理解される「雀」(ジヤン)の意味が失われるような発音はなされないものである。確かに、「ジヤンム」のうちの「ン」を独立した音としてみると、鼻音で聴取しにくい弱い音ではあるが、それだからといつて、「ジヤン」という語が「ジヤ」と「ン」との分割され、後者が、これに続く「ム」と一体となるものとは認められない。「ジヤンム」のうちの「ジヤン」の部分は、前叙のとおり「雀」の漢字の発音として一体として認識され発音され聴取されるのであるから、たとえ「ン」の音が審決指摘のように鼻音で聴取しにくい弱い音であるからといつて、これが消失し、「ジヤンム」の音数までが短縮されて「ジヤム」のごとく短く発音されるものではない。このように、本願商標から生じる「ジヤンム」の称呼は、「ジヤム」とは「ン」の音の有無の違いしかないとはいえ、「ジヤン」と発音され、その「ン」の音ののちに、一呼吸おいて「ム」と発音されるので、聴者に対して、比較的にゆつたりとした感じを与えるとともに、抑揚の点においても異なつたものとして聴取されるものと認められる。したがつて、いかに迅速を旨とする取引の場においても、需要者が、本願商標の「ジヤンム」の称呼と引用各商標の「ジヤム」の称呼とを聴き誤るおそれはないものとみるのが相当であり、両者を称呼において類似するものとした審決の認定判断は誤りというべきである。原告のこの点の主張は理由がある。

4 前記認定のとおりの本願商標及び引用各商標の構成に徴して、両者が外観を異にするものであり、また、観念においても共通した点を見いだせないことは明らかである。

そして、本願商標と引用各商標とが称呼においても類似するとはいえないことは前示説示のとおりであるから、結局、本願商標について本出願前の商標登録出願に係る引用各商標に類似する商標に当たるとして登録を拒絶した審決の判断は誤りといわざるを得ない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容する。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五四年四月二七日、別紙(一)に示すとおり「雀夢」の漢字を縦書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を第二四類「娯楽用具その他本類に属する商品」として、商標登録出願(昭和五四年商標登録願第三一三六三号)をし、その後昭和五六年一二月二五日に指定商品を「おもちや、人形、娯楽用具、乗馬用具、乗馬ぐつ、つり具、楽器、演奏補助品、蓄音器(電気蓄音機を除く。)、レコード、これらの部品及び附属品」と補正し、昭和五七年八月七日、出願公告(昭和五七年商標出願公告第四四五八五号)されたところ、同年九月二一日、電元オートメーシヨン株式会社から登録異議の申立てがあり、昭和五九年一〇月一九日、登録異議の申立ては理由がある旨の決定とともに拒絶査定を受けたので、同年一一月一五日、これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右請求を昭和五九年審判第二〇八三〇号事件として審理した結果、昭和六三年一二月二二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成元年二月七日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本願商標の構成、指定商品及び商標登録出願日は前項記載のとおりである。

2 原審において、拒絶理由に引用した登録第一五二四五四九号商標は、「Super Jam」の欧文字よりなり、第二四類「おもちや、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード、これらの部品及び附属品」を指定商品として、昭和五三年四月二七日に登録出願され、昭和五七年七月三〇日登録されたものであるが、右引用に係る商標権は、昭和五八年二月一日に分割譲渡により登録第一五二四五四九号の一(指定商品「おもちや、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード、これらの部品及び附属品、但し、おもちや、人形、娯楽用具、これらの部品及び附属品を除く。」)(以下「引用商標の一」という。)と、登録第一五二四五四九号の二(指定商品「おもちや、人形、娯楽用具、これらの部品及び附属品)(以下「引用商標の二」という。)とに分割され、その登録が昭和五八年九月二六日になされたものである。

(本願商標と引用各商標との類否についての判断)

3 本願商標は、「雀夢」の文字よりなるところ、該商標を構成する文字中「雀」の文字は「ジヤク」、「シヤク」、「スズメ」などと発音されるほか、中国から伝わつた遊戯の「麻雀」が「マージヤン」と発音されて一般世人に広く親しまれていること、加えて、本願指定商品中に「麻雀用具」が含まれていることからすれば、該文字は「ジヤン」とも発音されるものと認められるものであり、したがつて、「雀夢」の文字からなる本願商標は「ジヤンム」と称呼され、これをもつて取引に資される場合も決して少なくないものとみるのが相当である。そうすれば、本願商標は「雀夢」の文字に相応して「ジヤンム」の称呼が生ずるものといわなければならない。

4 これに対し、引用各商標は「Super Jam」の欧文字に相応して「スーパージヤム」の称呼を生ずるほか、構成中の「Super」の文字は「上等の、特等の」の意を有する外来語として一般によく知られ、商品の品位、品質を誇称するものとして認識されているものであるから、自他商品の識別標識としての機能を果たすのは「Jam」の欧文字部分に存し、これより、単に「ジヤム」の称呼をも生ずると認めるのが相当である。

5 そこで、本願商標から生ずる「ジヤンム」と引用各商標より生ずる「ジヤム」の両称呼を比較するに、両称呼は、前者の中間に有する「ン」の音を後者が有していない点に差異を認められるものであるが、該差異音「ン」は鼻音で聴取しにくい弱い音であるうえ、前者にアクセントを有する強音「ジヤ」と後者に通鼻音で比較的弱く発音される「ム」の音との中間に位置する関係上、これを一気に「ジヤンム」と称呼する場合には、必ずしも「ン」音が明確に発音され、聴取されるものともいい難く、むしろ、「ン」音は後音「ム」と一体となり、「ム」に近い音として聴取されるというのが相当であるから、該「ン」音の有無の差異が称呼全体に与える影響は小さいものといわなければならない。してみれば、上記「ジヤンム」と「ジヤム」の両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは聴者をして彼此聴き誤らせるおそれがあるものといわなければならない。

6 したがつて、本願商標と引用両商標とは、称呼において類似する商標であり、かつ、その指定商品についても同一もしくは類似のものであるから、本願商標は商標法四条一項一一号に該当する。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙

<省略>

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